WE555システム
転機は突然やって来ました。2015年8月1日に行ったアキュフェーズの試聴会で、WE555システムをアキュフェーズのマルチチャンネルシステムでドライブしようという企画が起こりました。試聴会そのものは大成功でWE555システムを最新のマルチで鳴らした時の緻密なサウンドは今も記憶に残っています。問題は、その調整の過程で右側のドライバーが少し歪んでいるという事が分かった事です。
右側のドライバーの周波数特性を表した物です。2kHz付近で10dB落ちています。この事が原因となって音楽再生の際に2kHz付近で歪みが発生しているとの事でした。なるほど、言われてみれば、確かに再生中に右側から、たまにチリっという音が出ていましたが、さほど気にしていませんでした。アキュフェーズの方は恐らくダイヤフラムの損傷ではないかとおっしゃいました。ダイヤフラムは1年前に交換したばかり。となると過大入力による破損でしょうか。ともかく、試聴会が終わってから両方のドライバーを修理に出してみました。しばらくして連絡が入り原因が判明しました。原因は磁気回路内部の酸化(サビ)によって、ダイヤフラムにタッチする時に歪みとなるのだそうです。確かに歪みは、しょっちゅう出る訳ではなく、ごく稀に発生していました。原因が分かったので磁気回路のオーバーホールをお願いして、この際なので、ウーファーもツイーターもオーバーホールして貰う事にしました。
これはK-597の内部の端子です。これで信号が流れていたという事自体、不思議です。この部分は新品交換となりました。交換できない箇所はクリーニングで対処してもらいました。約2月かかって、ようやく戻って来たユニットを慎重に取付けて試聴してみました。腰が抜けました・・・全く前の音とは変わって普通の音になって戻って来たのです。以前の音はタメのきいたサウンドでここ一番という時の「ドッカーン」が魅力でした。なのでウェザーリポートのバードランドとか、ジャニスジョプリンのジャニスの祈り等は、このスピーカー以外では出せない世界を持っていました。それが他のスピーカーと同じ音になって戻って来たのです。しばらくは呆然としていました。そして気がつきました。実はWE555システムをドライブするアンプとしてオクターヴ/HP700を選びましたが、鳴り方が微妙に違っていて都合3台交換してもらいました。最新のHP700は繊細でとても奇麗な音なのですが、時々嫌な音を出す事があり結局、一番最初に聴いたデモ機を入れて貰いました。これは繊細感は少ないですが例の「ドッカーン」で最も爆発的な鳴り方をしてくれました。同じメーカーの同じモデルなのに、個体差なのかなと思っていましたが、実は原因はスピーカーにあったのです。磁気回路が酸化していて、ダイヤフラムやコーン紙などの振動板が動きづらくなっていた事や信号が流れる部分の接触不良などによってスピーカー自体がかなり「危うい」バランスで鳴っていたのです。だから、ある種の条件が揃った時には「ドッカーン」となるのに、そうでない場合には「嫌な」音を出していたのです。つまり、修理以前のスピーカーで嫌な音を出していたアンプは悪いのではなく正解だったという事です。HP700デモ機は最新の物に戻してもらいました。そして一からやり直しをして2016年まで調整を続けました。改めて修理から戻ったWE555をじっくり聴いてみると、やはり、かけがいの無い素晴らしいユニットです。これが本来のWE555の音なのだと考え、先ず、今までの音を全て忘れるためにフルレンジで鳴らしてイメージを掴み、それに低域と高域を加えるという方法で調整していきました。文章で書くと簡単ですが、カットアンドトライで行うので大変な時間と労力がかかりました。
パワーアンプはオクターヴ/V70SEのパワー部を使っています。真空管は全てテレフンケンに交換しました。出力管はEL34を使用しています。タイトな低域と抜けの良い中高域がWE555システムに合っているように思います。
2017年2月、パワーアンプをRE320にしました。パワー管はKT-150という21世紀に入ってから開発された真空管です。近未来的なデザインが魅力的です。鳴り方がV70SEでのテレフンケンのEL34のようにタイトな低域と抜けの良い中高域という点に惚れました。ビンテージ管を使った穏やかな鳴らし方も魅力ですが、私としては、WE555の立ち上がり、立ち下がりの早さを生かした現代風の鳴らし方を模索したいと思っています。
2017年9月現在の様子です。HP700は試聴の末、真空管を全てテレフンケン製と交換してあります。RE320はオリジナルのままです。KT150の音が気に入っているので、そのうち、前段を替えるかもしれません。WE555はツイーターと共に少し内ぶりにしています。ツイーターの位置は以前よりも奥になっており、ウーファーボックスの振動の影響から逃げるために台の上に載せています。現在は以前とは別な意味で良い感じで鳴っているので、しばらくはこの状態で鳴らしてみます。御興味のある方は、お好きなソフト持参の上(当方にも少しはありますが)御来店下さい。お待ちしております。