Sさんはオーディオ歴?十年のベテラン、そして非常に小さな音量で音楽をお聴きになる方です。音楽を再生中でも普通に会話ができるレベルといえば分かりやすいかもしれません。多少、オーディオをかじった方なら、お分かりと思いますが、このような聴きかたは実は各コンポーネントに大変な能力を要求します。ローレベル時のリニアリティやSN比が優れていなければ音が痩せてしまったり、音像がぼけてしまう事が多々あるからです。Sさんは少しずつ機器のグレードアップを行いながら、小音量時でも驚く程の分解能とダイナミックレンジが確保できるシステムを目指して来ました。2006年春にパワーアンプの入れ替えで更にパワーアップしたSさんの音を聴きに行って参りました。

スピーカーは米国THIEL社のCS2.3です。高品位ネットワークと優れたキャビネット形状によって、時間的・位相的諸問題を高いレベルでクリアしたモデルです。隣にあるのは30年近く愛用されている英国HARBETH社のMonitor HLです。

ラック最上段がCDトランスポート。その下にあるのはアキュフェーズの安定化電源です。下から2段目に見える管球アンプはWE300B使用の豪メロディ社の限定品で、HARBETH用として使用しています。
CDトランスポートはVRDSメカ搭載のエソテリック/P-2Sです。数少ないSTデジタル出力端子を装備したモデルで、このSTデジタル出力を下の画像の米国WADIA社のDAコンバーター(WADIAではデコーディング・コンピューターと呼んでいます)WADIA 27Xに送っています。アナログの信号経路は短いほど良いという持論を持つSさんは、プリアンプを認めません。高精度デジタルボリュームを装備したWADIAのDAコンバーターからの出力は、ダイレクトにパワーアンプに導かれます。
WADIA 27X。このDAコンバーターを使用すると、音量によって音像が変化することがありません。音量を絞っても全く同じスケールの音が単に小さくなるだけです。これを導入した時は、正直、驚きました。
アキュフェーズのパワーアンプから念願のパワーアンプ交換です。スイス/ゴールドムンド社のモノラルアンプMIMESIS 18.4を導入されました。分解能、SN比共に抜群です。ベールを1枚も2枚も取り払ったような解像度にもかかわらず、人肌のような温もりのある音質は大変魅力的です。
今回のグレードアップによって、Sさん宅の音は飛躍的に向上しました。以下にSさんから頂戴したMIMESIS 18.4導入直後の御感想の一部を御紹介しましょう。

正直言って恥ずかしいのですが,得も言われぬ感動に襲われています。
これまで,様々なモデルチェンジを含めたオーディオ遍歴を続けてきましたが,初め
て整った音になったという実感があります。

クリアで良く伸びた帯域,各音域でバランスのとれた弱音時でも崩れないエネルギー
特にクラシックでの楽器の定位と音場の再現(正確かどうかは別として)が見事で
これまで録音に疑問を感じていたCDも試聴に耐え得るようになりました。

本当にこれほど変わるのかと思うほど,感激しています。


Sさんはクラシックを中心に様々な音楽を楽しまれておられます。また、コンサートにもよく行かれるそうです。そんなSさんの音には、音楽を慈しむ心と深い教養が感じられます。長い時間をかけて、少しずつ装置のグレードアップを図る事は、とりもなおさず自分自身の成長と一体でなければ、無意味なのだという事を教えてもらったような気がしました。これからも多くの音楽を聴いて更に上の境地を目指していただきたいと思います。