オクターヴという選択-2
オクターヴのアンプの魅力の一つに真空管を簡単に交換できるという点があります。今回は手持ちの出力管を替えて、どのように音が変わるのかを聴いて行きたいと思います。初めはSvetlana(ロシア、以後スヴェトラーナ)の6550Cという球を使ってみました。パッケージに「C」マークが見えますが一般には「Winged C」と呼ばれているようです。実はスヴェトラーナは現在でも真空管を出しておりますが、現行機種は「S」マークとなっており、工場が異なるようです。「C」マークはサンクトペテルブルグの工場で生産された物で、結構評価が高いようです。2010年頃までは普通に流通していたと記憶しており、当時のマッキントッシュのパワー管にも採用されておりました。「S」マークのスヴェトラーナは現在、ニューセンサー社の一ブランドとなっています。尚、2000年以前のスヴェトラーナ管(サンクトペテルブルグ)は「S」マークで、ちょっとややこしいです。
印刷がほとんど見えない状態ですが、「Winged "C"」が見えますでしょうか。サイズはSOVTEK/6550WEとほぼ同じ。プレート(一番外側の金属部分)の穴が角形でリブ補強されている点が異なります。ガラスの淵が青く透けて見えますが、下地が青いからだけではありません。何故か、うっすらと青みが入っています。
スヴェトラーナ/6550Cでの試聴。オリジナルのSOVTEK/6550WEに比べるとボーカル帯域が自然になり、高域がしなやかになります。解像度は明らかに上がります。一方、低域の量感は、あまり無く穏やかな傾向となります。私個人としては大変好ましい音ですが、力強さとか華やかさでは6550WEでしょうか。尚、試聴感想は、あくまでも私見であり、個人差がありますので参考にとどめて下さい。
次に「C」マークスヴェトラーナの「KT88」を使ってみます。左右のペアで外観が異なります。実は当初、左側と同じペアがあって使用していたのですが、3ヶ月で1本がダウン。同じ物が手に入らず右側のペアとなった次第です。残った1本はスペアにする予定です。目視では内部は全く同じです。マイカが3枚になっています。こちらも6550Cほどではありませんが、ガラスの淵がうっすらと青みがかっています。
同じメーカーの球なので、音色は基本的に同じように感じますが、比較するとKT88の方がハイが結構伸びています。一方で6550Cで張り出して聴こえたボーカル帯域が少し引っ込む感じがしました。多分、こちらの方がフラットなのでしょう。良い意味で優等生的HiFi調と思います。
次はGenalex/Gold Lion(ロシア)のKT88です。2016年現在、入手可能なKT88の中では高額な球です(1本1万円前後)こちらもニューセンサー社の扱いブランドとなります。
こちらの音の傾向はオリジナルのSOVTEK/6550WEに似ているようです(SOVTEKもニューセンサー社傘下のブランド)が、より輪郭のはっきりした感じです。一つ一つの音が空間に浮かび上がり、ボーカルなどは前に出て来るような表現となります。非常にダイナミックな反面、もう少し潤いが欲しいかなという気もしますが、大変立派な音でした。
ここで参考までにヴィンテージ球を聴いてみます。オリジナルGEC(英)/KT88です。1本のみゴールドライオンです。御覧の通り、結構くたびれています。内部の構造も今までのロシア製6550/KT88とは、かなり異なります。
この音をどう表現したら良いのでしょう。一言で言えば「当時の人達は、こんないい音で聴いていたのか」という事です。低域は聴感上では先のロシア管よりも更に下に伸びていて、しかもパワフル。高域はパウダーのような心地よさ。中域の分解能としなやかさには目を見張る物があります。各楽器が奇麗に定位していて、決して暴れる事なく、きちんと音楽を奏でます。この球のみ、ボーカルの口の大きさが分かりました。いやはやびっくり。かなり、へたった球なのにも拘らず、こんな音で鳴ってくれるなら、新品だったらどうなのか想像もできません。
6550やKT88といった、いわゆる「強い球」を聴いたので、次は「弱い球」を聴いてみます。手持ちの球はスヴェトラーナ(Cマーク)のEL34です。6CA7とも呼ばれます。
バイアスは、このようにオレンジとグリーンの両方が点灯するように調整します。尚、調整の際には必ずポテンションメーターを絞りきってから行うようにした方が無難です。
中高域に輝きがあり、分解能が高い音です。低域は、あっさりした感じで無理に伸ばしていない点が美点と言えるかもしれません。未使用に近い球のせいか、私には高域が、やや硬質に感じられましたが、シンバルなどの金属を叩いた時の音が、とてもリアルに感じました。
当方のUSED在庫のマッキントッシュ/MC-30に付いているSYLVANIA(米)6L6GCを聴いてみます。ヴィンテージ球です。
結論から言うとこちらも前述のGEC/KT88同様、素晴らしい音でした。低域の制御力は少ないものの、中高域の分解能、サウンドステージの広さに驚かされます。聴感上のSN比は今まで聴いた球の中では最も高く感じました。マッキン/MC-30の音とは当然の事ながら、かなり違いがあり、爽やかな印象の音です。
ヴィンテージ管で良い結果が出たので、いよいよ最後はマランツ/8Bに挿してあったTELEFUNKEN(テレフンケン/独)のEL34を聴いてみたいと思います。この球もオリジナル8Bに挿してあった物ですので相当へたっています(多分40歳くらい)
この音を聴いて、今まで低域がどうの高域がどうのと言って来た事がバカらしく思いました。そこには、ただ音楽があるだけです。ボーカルも含めた各楽器のリアルさ、弦の美しさ、空間の広がり、前後の定位感、全てが普通に鳴っているだけです。なのに、いつまでも聴いていたい気分にさせてくれる音でした。
このように、様々な出力管を替えて、その音の違いをはっきり出してくれる点がオクターヴ/V-70SEの最大の魅力だと思います。もちろん付属の出力管も結構クセの少ない良い球ではありますが、誰でも簡単に交換、調整ができるのですから、この機能を積極的に利用しない手は無いでしょう。尚、新品の真空管は経験上、不良は1年以内に発生する事が多いようです。球は消耗品と割り切った方が良いかもしれません。

その3(前段を差し替えてみる)

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